『国際投機商品に成り下がった円』
2011年10月24日 アニメ・マンガ【日曜経済講座】 産経新聞
編集委員・田村秀男 国際投機商品に成り下がった円
2011.3.13 07:38 (1/3ページ)
■通貨当局に危機感が欠如
読者の方から手紙で質問を頂いた。菅直人内閣の無能力と政局の混乱のために、来年度予算を含め経済政策の行方が定まらない。そんな様子を見て米国の格付け機関が日本国債を「格下げ」した。それなら日本国債や円相場は急落してもおかしくないが、現実には国債は買われ、円高基調が続いている。なぜだ、と。
答えを一口で言おう。日本国債も円も、原油と同じく国際的な投機商品に成り下がったからだ。原油相場が下がれば円高もやむだろう。
◆外国勢が主導
グラフは日本の国債相場の標準となる10年物の利回りと円相場の推移を追っている。国債利回りは市場での売買価格を反映する。価格が下がると利回りが上昇し、逆だと下落する。ドルなど大量の外貨を持つ外国の金融機関などは円高になると見越せば円建ての日本国債を買い、円安に反転すると判断すれば売る。したがって、円相場と国債利回りは連動する場合が多い。
2月初め以来、利回りは上昇し、円安に振れていたのだが、2月16日を最後に国債は低利回り、円高へと流れが変わった。リビアの独裁者、カダフィ大佐の退陣を求める民衆のデモが始まり広がり始めた時期と一致している。
ニューヨークの原油先物相場が急騰し始めたのは2月18日で、円高とタイミングは重なる。リビア情勢の緊迫化が石油供給不安を引き起こしたのだが、米国の投資ファンドなどは先物市場での原油高に賭けると同時にドルを売って円買いに走ったのだ。原油高と円高の両面で儲(もう)けようというわけである。
国債は国家が元本保証するうえに、償還期間も短期、中期、長期と多様だ。特に日銀の政策金利を参考に金利が安定している期間の短い国債は売り買いが円滑なので、国内ばかりでなく外国の金融機関や投資ファンドにとっても重宝な金融の道具である。日本証券業協会によると、外国人の国債投資は短期国債を中心に昨年後半から急増している。今年1月には13兆3600億円に達し、銀行、信金、農林系、生損保、投資信託を含めた国内金融機関合計12兆7700億円を圧倒した。
「外国人」はロンドン、ニューヨークなどを足場にする。「ヘッジファンドなど海外勢が円や日本国債の相場を決め、われわれ国内の金融機関はいつも追随させられる」と日本の大手証券の債券ディーラーは打ち明ける。
日本国内では、国家の総債務が国内総生産(GDP)の2倍近くになるなどという財務官僚の大本営式発表を真に受け、財政破綻懸念を煽(あお)る論調が多いが、そんな危機が起こりうるのはまだまだ先のことだと、短期思考の海外の投資家は気にしない。
◆急落の心配無し
日本の金融機関は増える国内預金をそっくり国債の追加購入に充てているので、当面は日本国債が暴落する恐れはない。しかも日本は世界最大の債権国であり、貿易黒字に加えて企業などの対外投資収益も入ってくるので円高に振れやすい。つまり円も国債も一夜にして急落する心配がない安全パイだ。保有残高を存分に膨らませられる。原油など国際商品市況と連動するのだから、ニューヨークやシカゴの日々の商品相場環境をみながら取引すればよい。
円や国債は日本経済の基幹である。さらに言えば、日本の株式平均もウォール街で事実上相場が決められているから、日本の金融市場や金融機関は無力と言っていい。
日銀に至っては、円高とデフレを阻止する気配がない。最たる例が民間金融機関の日銀当座預金のうち必要準備を超過する分について0・1%の利息を付ける硬直的な実質金利高政策だ。民間銀行の当座預金なら金利ゼロなのに日銀は利子のご褒美つきという、この奇怪な政策は2008年11月に導入した。日銀は当初、09年3月末で打ち切ると発表していたのに、延長に延長を重ねてきた。
この制度を最も積極的に活用しているのが外銀だ。ドルを売って得た円資金を最も安全で利息が保証される日銀口座に預けるので円高が進行する。10年後半からの円高の加速は外銀の日銀超過準備額の急増と密接に連動している。
日銀の白川方明総裁は10年10月5日には短期市場金利を0~0・1%に誘導し、「実質ゼロ金利政策」を明確にすると公言したが、欺瞞(ぎまん)そのものである。民間金融機関は日銀当座預金の0・1%金利を基準にするのだからゼロ金利になるはずがない。米国の金利は0・1%強なので、日米の金利差はほぼ解消したままだ。円高基調を変えようがない。円が外国の投機勢力にもみくちゃにされるのは、自国通貨の相場形成で主導権を喪失した当局に、危機感が欠如している帰結でもあるのだ。
以上、産経新聞でした・・・。
編集委員・田村秀男 国際投機商品に成り下がった円
2011.3.13 07:38 (1/3ページ)
■通貨当局に危機感が欠如
読者の方から手紙で質問を頂いた。菅直人内閣の無能力と政局の混乱のために、来年度予算を含め経済政策の行方が定まらない。そんな様子を見て米国の格付け機関が日本国債を「格下げ」した。それなら日本国債や円相場は急落してもおかしくないが、現実には国債は買われ、円高基調が続いている。なぜだ、と。
答えを一口で言おう。日本国債も円も、原油と同じく国際的な投機商品に成り下がったからだ。原油相場が下がれば円高もやむだろう。
◆外国勢が主導
グラフは日本の国債相場の標準となる10年物の利回りと円相場の推移を追っている。国債利回りは市場での売買価格を反映する。価格が下がると利回りが上昇し、逆だと下落する。ドルなど大量の外貨を持つ外国の金融機関などは円高になると見越せば円建ての日本国債を買い、円安に反転すると判断すれば売る。したがって、円相場と国債利回りは連動する場合が多い。
2月初め以来、利回りは上昇し、円安に振れていたのだが、2月16日を最後に国債は低利回り、円高へと流れが変わった。リビアの独裁者、カダフィ大佐の退陣を求める民衆のデモが始まり広がり始めた時期と一致している。
ニューヨークの原油先物相場が急騰し始めたのは2月18日で、円高とタイミングは重なる。リビア情勢の緊迫化が石油供給不安を引き起こしたのだが、米国の投資ファンドなどは先物市場での原油高に賭けると同時にドルを売って円買いに走ったのだ。原油高と円高の両面で儲(もう)けようというわけである。
国債は国家が元本保証するうえに、償還期間も短期、中期、長期と多様だ。特に日銀の政策金利を参考に金利が安定している期間の短い国債は売り買いが円滑なので、国内ばかりでなく外国の金融機関や投資ファンドにとっても重宝な金融の道具である。日本証券業協会によると、外国人の国債投資は短期国債を中心に昨年後半から急増している。今年1月には13兆3600億円に達し、銀行、信金、農林系、生損保、投資信託を含めた国内金融機関合計12兆7700億円を圧倒した。
「外国人」はロンドン、ニューヨークなどを足場にする。「ヘッジファンドなど海外勢が円や日本国債の相場を決め、われわれ国内の金融機関はいつも追随させられる」と日本の大手証券の債券ディーラーは打ち明ける。
日本国内では、国家の総債務が国内総生産(GDP)の2倍近くになるなどという財務官僚の大本営式発表を真に受け、財政破綻懸念を煽(あお)る論調が多いが、そんな危機が起こりうるのはまだまだ先のことだと、短期思考の海外の投資家は気にしない。
◆急落の心配無し
日本の金融機関は増える国内預金をそっくり国債の追加購入に充てているので、当面は日本国債が暴落する恐れはない。しかも日本は世界最大の債権国であり、貿易黒字に加えて企業などの対外投資収益も入ってくるので円高に振れやすい。つまり円も国債も一夜にして急落する心配がない安全パイだ。保有残高を存分に膨らませられる。原油など国際商品市況と連動するのだから、ニューヨークやシカゴの日々の商品相場環境をみながら取引すればよい。
円や国債は日本経済の基幹である。さらに言えば、日本の株式平均もウォール街で事実上相場が決められているから、日本の金融市場や金融機関は無力と言っていい。
日銀に至っては、円高とデフレを阻止する気配がない。最たる例が民間金融機関の日銀当座預金のうち必要準備を超過する分について0・1%の利息を付ける硬直的な実質金利高政策だ。民間銀行の当座預金なら金利ゼロなのに日銀は利子のご褒美つきという、この奇怪な政策は2008年11月に導入した。日銀は当初、09年3月末で打ち切ると発表していたのに、延長に延長を重ねてきた。
この制度を最も積極的に活用しているのが外銀だ。ドルを売って得た円資金を最も安全で利息が保証される日銀口座に預けるので円高が進行する。10年後半からの円高の加速は外銀の日銀超過準備額の急増と密接に連動している。
日銀の白川方明総裁は10年10月5日には短期市場金利を0~0・1%に誘導し、「実質ゼロ金利政策」を明確にすると公言したが、欺瞞(ぎまん)そのものである。民間金融機関は日銀当座預金の0・1%金利を基準にするのだからゼロ金利になるはずがない。米国の金利は0・1%強なので、日米の金利差はほぼ解消したままだ。円高基調を変えようがない。円が外国の投機勢力にもみくちゃにされるのは、自国通貨の相場形成で主導権を喪失した当局に、危機感が欠如している帰結でもあるのだ。
以上、産経新聞でした・・・。
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