韓国はいま「革命前夜」だ。2月末か3月初めに下ると予想されている憲法裁判所の判断で、大統領弾劾が決定すると、革命的雰囲気の中で60日以内に大統領選挙が実施される。そうなれば左派候補の勝利はほぼ確実だ。

 盧武鉉政権以来、約10年ぶりに左派政権ができれば、在韓米軍撤収や国家保安法撤廃、連邦制による北朝鮮との統一が実現してしまう危険性が高まる。そうなれば、半島全体が反日勢力の手に落ち、わが国にとって最悪の地政学的危機がくる。

≪「民心」をあおったメディア≫

 なぜ韓国がここまで急速におかしくなったのか。韓国保守を代表する言論人である趙甲済氏は私に「言論の乱」が起きたことが元凶だ、と指摘した。

 「北朝鮮の労働党機関紙の労働新聞と韓国の左派新聞のハンギョレ新聞、保守新聞の朝鮮日報、東亜日報、中央日報が朴槿恵たたきでは全く同じ報道をしている。だから11月23日付の労働新聞社説は韓国の新聞、テレビを激賛した。

 朴槿恵をたたく記事ならなんでも大きく扱われ、それにひきずられて左派ではない一般国民も反朴槿恵デモに集まった。その数をマスコミが検証もしないまま100万、200万などと報じたため、与党を含む国会と検察がそれに引きずられて朴槿恵たたきをしている。これは一種の全体主義だ」




 主催者発表で100万人が集まったという昨年11月12日のソウルのデモは、警察が占拠された道路面積から計算して26万人だった。つまり4倍も多く発表されているのだが、テレビと新聞は「百万民心」が朴槿恵大統領退陣を求めたと繰り返し報じた。

 「百万民心」の「誤報」は国会が弾劾訴追を行った12月初めまで続いた。11月26日は主催者発表150万人(警察発表27万人の5倍以上)、12月3日は主催者発表170万人(警察発表32万人の5倍以上)-と大々的に報じ続けた。

 特に弾劾訴追直前の12月3日には、ソウルの170万人に加えて地方でもデモがあり、全国で200万人以上が集まったと報じた。もちろん警察発表の数字も記事中にはあるが、見出しや社説などで「百万民心」と書くのだから「誤報」と言うべきだろう。

≪「誤報」引用し大統領を糾弾≫

 この「誤報」に与党セヌリ党が動揺した。そもそも、国会は検察の捜査では不十分だとして「特別検察官」を任命し、その捜査が始まったばかりのタイミングだった。憲法上、国会が議決できる弾劾訴追は重大な憲法違反や法律違反があった場合に限られており、政治責任を問うことはできない。内閣不信任決議との大きな違いだ。従って、少なくとも自分たちが任命した「特別検察官」の捜査結果が出るのを待って、訴追にあたるか否かを審議すべきだった。




 ところがそれをせず、12月9日に与党議員60人以上が裏切って弾劾に賛成した結果、訴追案が議決された。訴追案は結論部分で「誤報」をそのまま引用し、以下のように朴槿恵大統領を糾弾した。

 「2016年11月12日および11月26日、ソウル光化門だけでも100万人を超える国民がろうそく集会とデモをして大統領下野と弾劾を要求した。朴槿恵大統領を叱咤(しった)し、これ以上、大統領の職責を遂行するなという国民の意思は明らかだ。主権者の心は、数多くの国民が世代と理念と出身地域に関係なく平和的に行っている集会とデモで十分に表されている」

≪保守派大規模デモで弾劾棄却を≫

 弾劾訴追に賛成したセヌリ党の羅卿●議員は「百万民心」が怖かった、と率直に認めている。

 「弾劾がなければ、日に日に膨らんでいくろうそく集会の参加者を、絶対になだめることができなかった。弾劾直前のろうそく集会に集まったのは232万人。国会が弾劾手続きに入らなかったり否決したりしたならば、過去の4・19革命(1960年に民衆運動で李承晩大統領が辞任に追い込まれた事件)よりもっと深刻な混乱の状態を招来しただろう」



東京基督教大学教授・西岡力氏(野村成次撮影)
東京基督教大学教授・西岡力氏(野村成次撮影)

 一方、弾劾訴追が成立した翌12月10日以降、保守派も弾劾に反対する大規模なデモを行っている。彼らは国旗である太極旗を手に集まっている。1月7日の太極旗デモには3万7000人が参加し、ろうそくデモ(2万4000人)を動員数で上回った。左派が警察に圧力をかけたため、7日以降はデモ参加者の発表はなくなったが、毎週土曜日の太極旗デモは1月に入って毎回、ろうそくデモを圧倒しているという。

 参加した若い夫婦は「当初は言論報道を信じてろうそくデモに加わったが、朴槿恵大統領を処刑する断頭台が登場するなど、あまりの過激さにおかしさを覚えた。ネットで事実を知り、韓国の自由民主主義の危機を救おうと太極旗デモに参加した」と語っている。

 保守派は3月1日の独立運動記念日にソウルで大規模な太極旗デモを計画している。10万人以上が参加すれば、憲法裁判所が左派の圧力に屈しないで、法と証拠に基づいて決定できる。そうなれば弾劾棄却も十分あり得る。(東京基督教大学教授・西岡力 にしおかつとむ)

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