習近平国家主席は10日、新型コロナウイルスの感染拡大以降、初めて武漢を視察した。この日「悲劇は防げたはず」と告発する、武漢の現役医師のインタビュー記事が、ネット上から削除された。
習近平は武漢で医師らを讃えたが...
習近平主席は10日、「震源地」である湖北省の武漢を、感染が拡大して以来、初めて視察した。感染を封じ込めつつあるとして、防疫対策の成果をアピールする意味があった。
その中で、医療従事者を「希望の使者であり、真の英雄」などと讃えた。
しかし、同日に発表された、最前線の医師のインタビュー記事の原文と、それを転載した記事などが、わずか3時間でネット上から削除されたという。
削除された告発医師の記事
その記事とは、武漢市中心医院の救急科主任、艾芬医師のインタビューを元にした内容。
彼女は、去年12月30日の段階で、感染症の発生に気づき、グループチャットで同僚らに警告した。しかし、上司からは専門家がデマを流したと叱責され、「これまで経験したことのないような厳しい訓戒処分」を受けてしまった。
インタビューからは、彼女がとても落ち込んだ様子が伝わる。
さらに、武漢市の衛生委員会の通知として、情報を口外しないよう口止めされた。
「原因不明の肺炎について、勝手に外部に公表して、大衆にパニックを引き起こさないように。もし情報漏洩によってパニックが起きたら、責任を問う」
夫や子にも言えず...
彼女がグループチャットで発した情報を転送した同僚の医師ら合わせて8人が処罰された。その中には、勇気ある告発者として国内外で知られた後、2月7日に35歳で亡くなった眼科医、李文亮医師も含まれる。
口止めされた艾芬医師は、家族にも真実を言えなかった。夫や子供に対し、人の多い所には行かないよう、外出する時はマスクをするよう注意する、などしか術がなかった。
病院の中でも同様だった。ある医師は、外側に防護服を着るべきだと提案したが、病院は、防護服はパニックを引き起こすとして認めなかった。彼女は部下である救急科の医師には、白衣の下に防護服を着用するよう求めた。全く理にかなっていなかった。
悲劇は防げたはず
彼女の勤務する武漢市中心医院では、これまでに、李文亮医師を含む医療関係者4人が死亡し、200人以上が感染確認されたという。
同僚の死さえ目の当たりにした艾芬医師は、後悔の念を述べている。
「もし1月1日に皆が用心できていれば、このような多くの悲劇はおきなかった」
削除されないよう記事を漫画に「翻訳」して転送(写真はSNSより)
削除されないよう記事を漫画に「翻訳」して転送(写真はSNSより)
当局の検閲に庶民が採った手段は?
削除されたのは、このような内容の記事だった。しかし、中国の庶民も黙ってはいなかった。検閲を逃れるために、元の文章あるいは文字の一部を、他の言語や絵文字、暗号などに置き換えて転送した。甲骨文字版もあるというし、漫画版もある。国民の生死がかかっている事態にあっても、真実を隠蔽しようとする当局の宣伝工作に対し、一矢を報いた形だ。
そうやって当局の手を逃れ、人々が艾芬医師の言葉を共有している。
「立ち上がって本当の話をする人がいるべきだ。この世界には、多様な声があるべきだ」
艾芬医師の記事が様々に「翻訳」され共有されている(写真はSNSより)
艾芬医師の記事が様々に「翻訳」され共有されている(写真はSNSより)
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宮崎紀秀
在北京ジャーナリスト
日本テレビ入社後、報道局社会部、外報部、調査報道班を担当。中国総局長として毒入り冷凍餃子事件、四川大地震、北京五輪、金正男、6か国協議など取材。2010年フリーに。2013年から再び拠点を北京に移し、主に中国の社会問題や事件をルポ。NNN系列「真相報道バンキシャ!」「ウエークアップぷらす」などで作品発表。「新潮45」「東洋経済オンライン」などに寄稿。調査報道NPO「インファクト」編集委員。
miyazakinorihid
miyazakinorihide
宮崎紀秀の最近の記事
10万人の犠牲者をネタにしてアメリカ民主主義を否定。コロナ禍で自信をつける中国5/29(金) 18:00
新型コロナの感染源は武漢の市場ではない!発言が突然変わる中国の科学者を信用できないワケ5/27(水) 19:00
新型コロナ対策でやはり武漢を宣伝の道具に利用してしまう中国事情5/25(月) 16:51
新型コロナを抑え込んだはずの中国で、感染の第2波が始まったのか?
習近平は武漢で医師らを讃えたが...
習近平主席は10日、「震源地」である湖北省の武漢を、感染が拡大して以来、初めて視察した。感染を封じ込めつつあるとして、防疫対策の成果をアピールする意味があった。
その中で、医療従事者を「希望の使者であり、真の英雄」などと讃えた。
しかし、同日に発表された、最前線の医師のインタビュー記事の原文と、それを転載した記事などが、わずか3時間でネット上から削除されたという。
削除された告発医師の記事
その記事とは、武漢市中心医院の救急科主任、艾芬医師のインタビューを元にした内容。
彼女は、去年12月30日の段階で、感染症の発生に気づき、グループチャットで同僚らに警告した。しかし、上司からは専門家がデマを流したと叱責され、「これまで経験したことのないような厳しい訓戒処分」を受けてしまった。
インタビューからは、彼女がとても落ち込んだ様子が伝わる。
さらに、武漢市の衛生委員会の通知として、情報を口外しないよう口止めされた。
「原因不明の肺炎について、勝手に外部に公表して、大衆にパニックを引き起こさないように。もし情報漏洩によってパニックが起きたら、責任を問う」
夫や子にも言えず...
彼女がグループチャットで発した情報を転送した同僚の医師ら合わせて8人が処罰された。その中には、勇気ある告発者として国内外で知られた後、2月7日に35歳で亡くなった眼科医、李文亮医師も含まれる。
口止めされた艾芬医師は、家族にも真実を言えなかった。夫や子供に対し、人の多い所には行かないよう、外出する時はマスクをするよう注意する、などしか術がなかった。
病院の中でも同様だった。ある医師は、外側に防護服を着るべきだと提案したが、病院は、防護服はパニックを引き起こすとして認めなかった。彼女は部下である救急科の医師には、白衣の下に防護服を着用するよう求めた。全く理にかなっていなかった。
悲劇は防げたはず
彼女の勤務する武漢市中心医院では、これまでに、李文亮医師を含む医療関係者4人が死亡し、200人以上が感染確認されたという。
同僚の死さえ目の当たりにした艾芬医師は、後悔の念を述べている。
「もし1月1日に皆が用心できていれば、このような多くの悲劇はおきなかった」
削除されないよう記事を漫画に「翻訳」して転送(写真はSNSより)
削除されないよう記事を漫画に「翻訳」して転送(写真はSNSより)
当局の検閲に庶民が採った手段は?
削除されたのは、このような内容の記事だった。しかし、中国の庶民も黙ってはいなかった。検閲を逃れるために、元の文章あるいは文字の一部を、他の言語や絵文字、暗号などに置き換えて転送した。甲骨文字版もあるというし、漫画版もある。国民の生死がかかっている事態にあっても、真実を隠蔽しようとする当局の宣伝工作に対し、一矢を報いた形だ。
そうやって当局の手を逃れ、人々が艾芬医師の言葉を共有している。
「立ち上がって本当の話をする人がいるべきだ。この世界には、多様な声があるべきだ」
艾芬医師の記事が様々に「翻訳」され共有されている(写真はSNSより)
艾芬医師の記事が様々に「翻訳」され共有されている(写真はSNSより)
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宮崎紀秀
在北京ジャーナリスト
日本テレビ入社後、報道局社会部、外報部、調査報道班を担当。中国総局長として毒入り冷凍餃子事件、四川大地震、北京五輪、金正男、6か国協議など取材。2010年フリーに。2013年から再び拠点を北京に移し、主に中国の社会問題や事件をルポ。NNN系列「真相報道バンキシャ!」「ウエークアップぷらす」などで作品発表。「新潮45」「東洋経済オンライン」などに寄稿。調査報道NPO「インファクト」編集委員。
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